世の中に、本当に強い人なんていないと思っています。弱いのが、当たり前なんです。
心が疲れると、体が痛くなる。それは意志が弱いからでも、気のせいでもありません。弱さを抱えながら生きているのが人間で、それがむしろ、人が人らしくある理由だと私は思っています。まず、それだけ知っておいてください。
少し想像してみてください。
毎朝スマホを開くと、ニュース・SNS・通知が一気に流れ込んでくる。他の人の「充実した日常」を見ながら、今日もなんとなく疲れた気がする——そんな朝、ありませんか。
選ぶものが多すぎる。比べる相手が多すぎる。「もっとがんばらなきゃ」という声が、頭の中で鳴りやまない。
じつは、それが体に出ているんです。
緊張がほぐれない肩。朝から重い頭。なんとなく続く胃のもたれ。「病院に行くほどじゃないけど、ずっとしんどい」——その感覚、正直なシグナルです。
これは「気のせい」でも「あなたが弱いから」でもない——そのことを、数字と研究が示しています。
国連が発表した「世界幸福度ランキング2025」で、日本はG7の中で最下位圏の58位(143カ国中)でした。GDPで世界3位の経済大国が、幸福度では58位。さらに厚生労働省の統計によると、10代〜30代の死因の第1位は「自殺」。先進国の中でこの年齢層の死因1位が自殺なのは、日本だけです。
なぜ、物質的に豊かなのにこんなに苦しいのか。
心理学者のバリー・シュワルツは著書『選択の科学』の中で、「選択肢が増えるほど、人は不満足になる」という逆説を示しました。シーナ・アイエンガーが行ったジャムの実験でも、24種類を並べた棚より6種類の棚の方が、購買率も満足度も高かった。情報もSNSも選択肢も「多すぎる」現代は、人間の脳が本来想定していなかった負荷を常にかけ続けています。便利になることと、幸せになることは、同じではないのです。
そして、その心の疲弊は確実に体に現れます。ストレスを感じると、脳は「HPA軸」というシステムを通じて副腎に命令を送り、コルチゾールというホルモンを分泌します。これはいわゆる「戦闘モード」のホルモン。筋肉を緊張させ、血圧を上げ、全身を「すぐ動ける状態」にします。一時的なストレスなら問題ありません。でも慢性的にさらされ続けると、この戦闘モードが終わらなくなる。筋肉はずっと緊張したまま——それが「揉んでも揉んでも取れない肩こり」の正体のひとつです。
国際的な腰痛ガイドライン(Lancet, 2018)でも、慢性腰痛の回復に最も影響するのは姿勢や骨の状態ではなく、心理社会的な要因だと結論づけています。
さらに、東洋医学は2000年以上前からこの事実を知っていました。「怒りは肝を傷つけ、深い悲しみは肺を弱らせる」——感情と体の臓器を結びつけた「七情」の考え方は、現代科学が少しずつ証明しつつある事実と、驚くほど重なっています。
「気のせいかも」と自分を責めないでください。あなたの体は、正直に反応しているだけです。
正直に言えば——私が武道を始めたのも、この仕事を選んだのも、自分が弱かったからです。
強くなりたかった。何かにしがみつきたかった。そんな気持ちで武道の門をたたきました。
でも長く稽古を続けてきて、気づいたことがあります。本当に強い人は、自分の弱さを人に見せられる人なんじゃないか、と。
本当に強いなら、強く見せる必要はない。誰かに弱さを見せることを恐れない。誰にでも自然に寄り添える——そういう人が、私が出会ってきた中で「強い」と感じた人たちでした。
逆に、強そうに見える人は、ただ余裕がなくて見栄を張っているだけに見えることが多い。強さとは違う何かです。
弱いから、人に頼る。弱いから、誰かのそばにいたくなる。弱いから、助け合いが生まれる。そしてその助け合いが、人の本当の強さをつくっていくと、私は信じています。
診させていただく中でも、感じることがあります。体の症状の奥に、言葉にできない何かを抱えている方がいる。「弱音を吐いてはいけない」「しんどいと言えない」——そう思いながら、ひとりで抱えてきた時間の重さ、みたいなものが伝わってくることがあります。
それは恥ずかしいことでも、情けないことでもない。人間として、あまりにも正直な姿だと思います。
だから今日、ひとつだけ。
「なんか体がしんどいな」と思ったとき、「弱いせいだ」ではなく——「人間だから当然だ」と、ちょっとだけ読み替えてみてください。
弱さを認めたとき、はじめて誰かに頼れる。頼れたとき、はじめて誰かとつながれる。そのつながりが、あなたの、そして周りの人の強さになっていく。
あなたの体は、嘘をつかない。それは信頼できる味方です。
体のことだけでなく、今の気持ちをそのまま話してもらって構いません。「症状の話より、最近しんどくて」——そんな始まりで大丈夫です。一緒に考えます。


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